「あなたの心を操る隣人たち」を読んで
あなたの心を操る隣人たち/ジョージ・サイモン 著/秋山勝 訳
ハードカバー版 「あなたの心を操る隣人たち」
副題:―― 忍びよる「マニピュレーター」の見分け方、対処法
文庫版 「他人を支配したがる人たち」 ※改題
副題:―― 身近にいる「マニピュレーター」の脅威
原書 IN SHEEP'S CLOTHING(羊の毛皮を被っている)
副題:Understanding and Dealing with Manipulative People(他人を操る人についての理解と対処)
マニピュレーターとは
マニピュレーターとは人を追い詰めて、その心を操ろうとする者を指す言葉です。表面上は羊のように人畜無害に見えても、中身は鋭い牙を持つ狼です。マニピュレーターは隠された攻撃性(カバードアグレッション)を持っています。
あの人の言ってること間違いではないけど何かおかしいと感じたら、それはマニピュレーターによる隠された攻撃かもしれません。直観は本能に根差していて正しい場合があります。
隠された攻撃性を持つ人はアンフェアーな勝負を仕掛ける
隠された攻撃性を持つ人は相手の弱点を見逃さずに、自分の強みを最大限活かせる状況で、アンフェアーな戦いを仕掛けます。
例1 ※quit-benzoによる作文
大雪が降った翌日、上司Aは遅刻した部下たちにメールで「大雪が降ることは分かっているのだから、遅刻する理由が分からない。会社の近くになぜ泊まらないのか。君が出社してないせいで顧客からクレームが来ている。社会人失格だ」と送った。
この上司は徒歩5分の場所から出社しているので、どんな天候でも遅刻しない。部下たちは電車やバスを乗り継いで出社している。遅刻は状況によってはやむを得ない。会社の近くに宿泊したら1日分の給料の半分近く消費する。しかし、上司はそんなことお構いなしだ。社員Bは上司Aの言う通りだと自分を恥じた。社員Cはこんな悪天候での出社は無理で、上司Aとは条件が違うから気にしないことにした。その後、社員Bは上司Aの言いなりになり、理不尽な叱責を受けるようになった。一方、社員Cは上司Aの理不尽さに付き合わずに、自分にできること、それが上司の利益になることを説明して相互理解に努めた。
相手の出方に応じて、自分の行動を調節し続ける人は、同じ問題を繰り返し起こす可能性がある。自分でルールを作り、実行できる人は強い。
操作する側される側の双方が無自覚
隠された攻撃性を持つ人
隠された攻撃性は本人が無自覚(悪気がない)なので、相手に気づかれずに危害を加えられます。隠された攻撃性を持つ人の戦術には次のものがあります。
隠された攻撃性を持つ人の戦術
- 矮小化
- 虚言
- 否認
- 選択的不注意(選択的注意)
- 合理化
- 話題を転換する
- はぐらかし
- 暗黙の威嚇
- 罪悪感を抱かせる
- 羞恥心を刺激する
- 被害者を演じる
- 犠牲者を中傷する
- 忠実なるしもべを演じる
- 人をそそのかす
- 責任転嫁する(他人のせいにする)
- 無実を装う
- 無知を装う・混乱を装う
- これ見よがしに威嚇する
これらを巧みに使うことで、自分自身とも、相手とも向き合わずに、自分の自尊心を徹底的に守ろうとします。自分の問題を相手の問題に付け替えます。
隠された攻撃性を受けやすい人
一方、操作されやすい人は上記の刺激に無自覚に反応してしまいます。無自覚なので何度も同じ攻撃をされ続けます。それを回避するのは大変難しく、人によっては何十年も痛めつけられています。どうして毎回攻撃を受けて避けられないのか、毎回わかりません。それに対抗するには、隠された攻撃性を客観的に理解し、自分の性格を熟知します。
攻撃を受けやすい人の特徴
- 過剰にナイーブである
- 過剰に良心的である
- 自信に乏しい
- 理詰めで物事を考えすぎる
- 依存感情がある
隠された攻撃性への対処法
- 展開を読んで手を打っておく
- 負け試合には手を出さない
- 言い訳を聞き入れない
- 意図ではなく行動で判断する
- 個人的な限界を設ける
- はっきりと要求する
- ダイレクトな返事だけを受け入れる
- 集中力を保って目の前の問題を考える
- 相手を問いただすときには責任を突きつける
- あざけりや憎しみ、露骨な非難は避ける
- 脅迫するような真似は避ける
- 行動は素早く起こす
- 自分の考えを話す
- 妥当な合意を結ぶ
- 相手の反撃に備える
- みずからに対して正直であれ
アグレッシブネスではなく、アサーティブネス
アグレッシブネス:強引に自分の意見を押し通す
アサーティブネス:明確に自己主張する
強引に自分の意見を押し通すのではなく、明確に自己主張することで、議論を発展的に進めて双方の妥協点をお互いに導く可能性が高くなります。
スティーブ・ジョブズはマニピュレーターか?
訳者あとがきによると、Apple社のスティーブ・ジョブスは攻撃性が隠されてない場面もあり、自覚もあるので完全なマニピュレーターでないと分析しています。
彼は「現実湾曲空間」と形容される強引な誘導して、それについていけない人を罵り、ついていける人を称賛し、繰り返し人を振り回して自分の理想実現に付き合わせました。彼による称賛は明日には罵倒に変わっていることは日常茶飯事でした。毎日のように思考のスクラップ&ビルドをし、洗練された製品を世に放ちました。
私の分析では、彼は「隠された攻撃」と「明らかな攻撃」を使い分けて、対象を思考停止にさせて、自分の考えに付き合わせていたと思います。「明らかな攻撃」は「隠された攻撃」を相手に気づかせないための効果的な役割をしていたと考えています。
スティーブ・ジョブズは型破りなマニピュレーターだと思います。
隠された攻撃性がはびこる社会性
ゼロサムゲームに人々が追い込まれて、個人の価値観が尊重されず、創造性が欠如したので、疑心暗鬼になり隠された攻撃性が社会にはびこったと私は思います。
ゼロサムゲームとは、失点と得点の合計が0になる状況を指す言葉です。例えば、金貨が100枚あり、AさんとBさんにそれぞれ50枚渡して、時間制限1時間で奪い合いをしてもらいます。最終的にAさんが80枚(+30枚)でBさんが20枚(-30枚)なら、失点と得点の合計は0になります。途中で宝箱をみつけて金貨の総数が増えることはありません。つまりゼロサムゲームとは、相手の失点が自分の得点とイコールです。
ゼロサムゲームに勝つには、ゼロサムゲームをやめて、相手の失点に関係なく自分が得点する道を探すことです。椅子取りゲームであれば、椅子を奪い合うのではなく、自分で椅子を用意します。または、椅子に座ることを放棄し、立っていることに喜びを見つけます。
マニピュレーターから自由になるために、マニピュレーターが仕掛けるゲーム(ルール)分析し、ゲームを降りたり、ゲームを無力化させます。宇宙空間の広がりを想像すれば、ゼロサムゲームのような限られた資源を奪い合うのが滑稽に思えるでしょう。
1970年代に石油が後40年で枯渇するといわれて、40年経過しました。しかし、枯渇はしていません。40年の根拠はその時点で掘り出している油田について予想で言っていただけで、手を付けていない油田は計算に入れていませんでした。オイルショックでトイレットペーパーを争奪している写真を見たことがありますが、冷静になると可笑しなことです。
バッタは密集した環境で卵を産むと、その子供は相変異を起こし、密集した環境から別のえさ場へ飛び立つための体に変わります。それを群生相といいます。群生相になったバッタは攻撃性が高く、多くの種類の植物をエサにします。大量発生した群生相は蝗害(こうがい)を起こし、農作物に甚大な被害を与えるそうです。人間も密集し、相対的に資源が減ると攻撃性が増すのかもしれません。
隠された攻撃性を持つ人はプロフェッショナル
隠された攻撃性を持つ人を見つけて、相手を変えようとすると痛い目に遭います。相手は隠された攻撃性で生き抜いてきたプロフェッショナルです。あらゆる手段で痛めつけられる可能性があります。
ライオンがいる檻に入りながら噛まれない方法を考えるのは無駄な努力です。先ずは檻から出て鍵をかけて距離をとるべきです。
相手の行動を変えるのではなく、先に自分の行動を変えるほうが賢明です。つまり、相手の行動に干渉せずに、自分の行動に責任を持ちます。
隠された攻撃性を自分に向けてないか?
隠された攻撃性は他人だけではなく、自分自身にも向けられることがありそうだと、この本を読んで気づきました。毎回同じ失敗をして自分を責めるときに隠された攻撃性は無自覚に自分を痛めつけ、そして成長させないようにしているかもしれません。このジレンマから脱出する為にも、この本は役に立つと思います。