「心房細動にベンゾジアゼピン系薬剤を使用して複視が……」 by 読売新聞

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190514-OYTET50006/

「心房細動にベンゾジアゼピン系薬剤を使用して複視が……」

 読売新聞のサイトに「心房細動にベンゾジアゼピン系薬剤を使用して複視が……」という記事がありましたので紹介します。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の多くで、「複視」の副作用があることが薬剤の添付文書に記載されています。
引用:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190514-OYTET50006/

眼科医の立場で言えば、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の心房細動への適用は、薬物の添付文書にはありません。
引用:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190514-OYTET50006/

 記事中にデパス(成分名:エチゾラム)が登場していました。デパスの添付文書を確認したところ「複視」という言葉は見当たりませんが、次のことが書いてありました。

2. 精神神経系
0.1%未満
不眠,酩酊感,興奮,焦燥,振戦,眼症状(霧視,調節障害)

 0.1%未満とは1000分の1未満のことです。この表現だと多くても0.1%にギリギリ満たさないということで、無視されても仕方がない表現です。割合ではなく生データを書いていただかないと判断が難しい。

 心房細動について添付文書に書かれていません。直接的に心房細動の治療に使えるものでは無いようです。

ベンゾジアゼピンは代名詞的存在

 デパスは厳密に言えばベンゾジアゼピン系ではなく、チエノジアゼピン系です。ベンゾジアゼピン系と同じGABA-A受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合します。

 当サイトのタイトル「ベンゾジアゼピン薬害問題」です。これは「ベンゾジアゼピン – それはどのように作用し、 離脱するにはどうすればよいか(通称アシュトンマニュアル)」の影響でこのタイトルになりました。GABA-A受容体作動薬の中でベンゾジアゼピン系は過半数を占めています。ベンゾジアゼピンがGABA-A受容体作動薬の代名詞的存在になっています。

GABA-A受容体作動薬

 GABA-A受容体作動薬の系統(分類)と物質名の数をまとめました。物質名とは有効成分のことで、これらを使った製品は更に多く存在します。

GABA-A受容体作動薬の系統 物質名の数
バルビツール酸系 6
ベンゾジアゼピン系 31
チエノジアゼピン系 3
Z薬(非ベンゾジアゼピン系) 3
エタノール(アルコールの一種、酒類に含まれる) 1

※物質名の数は独自調査ですので、カウント漏れがあるかもしれません。

長期的な影響を調べているか?

 現状から察するにGABA-A受容体作動薬を長期に連用するとどういう悪影響が現れるか調べてなかったと思います。

 GABA-A受容体作動薬を連用するとGABA-A受容体にダメージを受けます。GABA-A受容体は興奮伝達を調節する部位なので、機能しなくなると興奮と抑制の調節が上手くできなくなります。

興奮と抑制の調節力低下により起こり得ること

  • 睡眠の調節ができない(眠りたいときに眠れない、起きたいときに起きられない)
  • 気分が不安定(元気なときと、憂鬱なときがバラバラに発生する)
  • 記憶力の低下(覚えられない、忘れられない)
  • 筋肉の調節(力が入らない、硬直して痛い)
  • 不随意運動(意図しない動作、けいれん)

 GABA-A受容体を積極的に回復させる治療方が無いと思います。対策はGABA-A受容体作動薬をゆっくり減薬し、GABA-A受容体を休ませて回復させることです。

 GABA-A受容体作動薬は根本的に治す治療薬ではなく、症状を抑える薬です。特に不眠や不安で長期間使用すべきではありません。どのぐらい連用すると良くないか日本では厳格に定義されていません。イギリスでは2〜4週間で止めると決められているそうです。よく処方期間の制限は個人差があるから決められないと言われます。そこで私が一つの目安を示します。

個人的体験から考える、GABA-A受容体作動薬の減薬計画

 投薬治療を開始してから、その薬が物足りなくなり、薬の増量や違う薬を求めたとき、それまでの服用期間の50%以上の期間をかけてゆっくり減薬して断薬します。 

 臨床現場でGABA-A受容体の状態をモニタリングしていないのが最大の問題です。患者を医師の主観を通して判断しているだけす。

 GABA-A受容体作動薬は手っ取り早く結果が出ますが、問題の解決になっていません。借金の先送りみたいなものです。時間稼ぎしている間に何もしなければ、後はもっと苦労します。

悩ましい問題

 別の診療科の医師が処方している薬を止めさせると、想定外の悪いことが起きた時に責任を追いきれません。それを防ぐには、その診療科の医師に連絡し意見交換し、可能であれば薬の減薬をお願いするのが良いと考えられます。

 GABA-A受容体は興奮伝達を調節する部位で、そこにベンゾジアゼピン系などのGABA-A受容体作動薬が結合すると、興奮伝達を抑制します。GABA-A受容体作動薬は減薬時に、処方目的と反対の結果が起きることが多い。それを離脱症状といいます。GABA-A受容体は薬に長期間干渉されると、薬の効果を無力化するために減少したり、鈍感になります。その状態で減薬すると興奮を抑制しにくくなります。いきなり断薬するのは慎重さに欠けた判断です。GABA-A受容体作動薬の減薬は、離脱症状を感じさせない程度の量を患者と相談しながら決める地道な作業です。GABA-A受容体作動薬の減薬に詳しくないと判断を大きく間違えます。

 薬を止めさせても改善しなければ、この薬は関係なかったと分かるのですが、時間がかかります。GABA-A受容体作動薬の悪影響を判定する為には、服用期間の50%は必要になるかもしれません。

 このような混乱を防止するためには、GABA-A受容体作動薬の連用を制限するか、GABA-A受容体を検査する体制を整えるしか無いと思います。コストの面では前者のほうが安く済みます。

 精神医療の投薬治療の問題点は、なんとなく向精神薬を処方して、なんとなく判断していることで、脳神経を具体的に検査していません。そのような検査はお金も時間もかかる上、すべてを判断することもできません。ベンゾジアゼピン薬害裁判を傍聴して分かったことは、医師が判断したことは証拠になるが、患者側の考えは証拠にならないので、具体的に証拠を示す必要があることです。具体的な証拠を示していないのは医師も同じなのですが、権威的な医師が意見書を出せば裁判官は信用してしまいます。

 ベンゾジアゼピン薬害問題は医学とか薬学とかの問題ではなく、自分で考えて判断することを放棄した人間が、代わりに判断してもらう過程で起きた必然的な現象です。

感謝

 若倉雅登 様の勇気あるご指摘に感謝いたします。

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